ウズベキスタンで食べたざくろ

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ウズベキスタンには20日間ほど滞在したが、街の数も少なく、時間を持て余してしまった。
気まぐれに、砂漠で1泊してみることにした。
砂漠の中に、ユルタというモンゴルのゲルのようなテントに宿泊できる、観光客用の施設があったのだ。
往復のドライバーを雇った。それがティムールさん(心の中ではティムさんと呼んでいた)、だ。
ティムさんは穏やかでシャイなおじさんで、英語もほぼ話せなかった。
ティムさんは行きは3回車を止めた。
1回目は市場で、果物と野菜(後でそれは食卓にのぼった)、そして私たちに水を買ってくれた。
2回目は偶然フタコブラクダの群れと遭遇した時で、写真を撮り終わるまで待ってくれた。
3回目はアイダルクル湖という大きな湖で、そこは私たちが希望した場所だったのだけど、着いてみると、特にきれいということもなく、風が吹き荒れており、数枚写真を撮った後はすることがなくなってしまった。
その後ユルタに着き、昼ごはんを食べ、促されるまま昼寝をし、夕暮れ時にラクダに乗って散歩をした。
不思議な空虚感におかしさがこみあげてきた。

晩ごはんの時。晩ごはんはどれもおいしかった。
デザートにざくろがあって、ティムさんが黙ってそれを私たちのためにむいてくれた。
ざくろ、見たことはあったけど、食べたことがなかった。
それはとても大きく、中には宝石のように赤く美しい小さい実がぎっしり詰まっていた。
さあさあとティムさんが勧めるので食べてみると、なんとも芳醇な味がした。
甘酸っぱく、お酒のような香りが少しだけ口の中で香った。
分からないけど、もしかしたら日本のとは違う味なのかもしれない。
フクースナ!と数少ない知っているロシア語でおいしいと言うとティムさんは嬉しそうにどんどんむいてくれたので、どんどん食べた。
翌朝はまた、私がピスタチオをおいしく食べているのを見て、あるだけ全部カラから出してくれた。
それは小さい子どもに対するような素朴な優しさだった。
旅先でそういう風に優しくされることは、存外少ない。
ティムさんは元の街に戻る道でも途中で果物を買って、自分のミネラルウォーターで洗って渡してくれた。
結局ほとんど声は聞けなかった。
でも、帰り道遠くを指さして「あっちがカザフスタンだよ」と教えてくれた。

それにしてもあの味、
あのざくろは本当においしかったなと今でも思い出す。
中に小さくて美しい実がたくさん入っていて、食べるとプチプチと甘酸っぱくはじける、あの果物、
人生にちょっと似てるかもなと思う。似ていたらいいなと思う。